マルチモーダルAIとは?定義・仕組み・利点・課題・活用事例

12/20/2024

マルチモーダルAIとは?

本記事では、マルチモーダルAIの定義、仕組み、メリット、課題、業界別の活用事例、マルチモーダルAIのトレーニングに必要な学習データなどを解説していきます。

マルチモーダルAIの定義

マルチモーダルAI(Multimodal AI)とは、異なる種類のモダリティ(データ)を統合的に処理・理解するAIを指します。

モダリティとは、画像、動画、音声、テキスト、センサーなど、データの形式のことです。

マルチモーダルAIは、これらの複数の異なる形式の情報を同時に理解し、総合的に判断できることから、より人間に近い理解力や判断力を実現する技術として注目されています。

例えば、動画内の視覚情報と音声情報を同時に処理することで、より自然な対話を実現したり、視覚障害者向けの音声解説を生成したりすることが可能です。

マルチモーダルAIと従来のAIの違い

従来のAIは、シングルモーダルAIと呼ばれ、画像、動画、音声、テキストなど、特定のデータ形式にしか対応できませんでした。例えば、画像処理AIの場合は画像、音声認識AIの場合は音声といったように、単一のモダリティのみを処理していました。

マルチモーダルAIは、これらの複数の異なる形式の情報を組み合わせて、総合的に判断できることから、より人間に近い理解力や判断力を実現する技術として注目されています。

マルチモーダルAIの仕組み

マルチモーダルAIモデルは、ディープラーニングとニューラルネットワークのアーキテクチャを活用し、複数の種類のデータ(モダリティ)を同時に処理します。テキストベースのチャットボットのように単一のモダリティ(テキスト)のみで動作する従来のAIとは異なり、マルチモーダルモデルは異なる種類の入力を組み合わせて処理し、それらを統合して出力の生成が可能です。

会議の議事録を自動生成するシステムの例

例えば、会議の議事録を自動生成するシステムを考えてみましょう。この場合、AIモデルは動画、会議中の音声、発言内容のテキストといった3つの異なるモダリティを同時に処理し、要約を生成します。

マルチモーダルAIのメリット

マルチモーダルAIは、シングルモーダルAIと比べて、多くのメリットを持っています。

精度が向上する

マルチモーダルAIは、複数の種類のデータを組み合わせて解析することで、より正確で深い理解を可能にします。

異なる種類の情報が互いに補完し合うことで、AIの認識や推論の精度が大きく向上します。

これは、人間が視覚・聴覚・嗅覚といった複数の感覚を組み合わせて、状況を文脈的かつ総合的に理解するのと似ています。

柔軟性・拡張性が向上する

画像、動画、音声、テキスト、センサーなど、異なるデータ形式の情報を処理する柔軟性を持つマルチモーダルAIは、あらゆる業界や分野に応用できます。

ヘルスケア医療、教育、自動車Eコマース、物流など、取り扱うデータの種類が多岐にわたる現場で、より正確で適切な状況判断と、それに基づく支援が可能になり、業務効率の改善やサービスの質の向上につながります。

マルチモーダルAIの課題

マルチモーダルAIは非常に高い性能を持つ一方で、導入・実用化においていくつかの課題が存在します。

膨大なデータ量が必要

マルチモーダルAIモデルを学習させるには、大量かつ多様な種類のデータが必要です。

しかし、テキストと画像など、異なる種類のデータがペアになったデータは、希少で、入手が難しいのが現状です。

特に、オープンソースのデータセットは、テキストと画像の組み合わせに偏る傾向があり、汎用的な用途に限られるケースが多く、医療などの高度な性能が必要となる特定分野での応用には不十分であることが少なくありません。

そのため、より多様なモダリティに対応するマルチモーダルAIモデルを構築し、特定の目的に合わせて高精度なファインチューニングを実現するには、独自のデータセットを作成する必要があります。

高品質なデータ量が重要

マルチモーダルAIの性能は、モデルをトレーニングする際に使用する学習データの品質に大きく依存しています。

最適なパフォーマンスを発揮するためには、高品質なマルチモーダルデータが不可欠です。高品質なデータが不足していると、期待通りの性能を持つマルチモーダルAIを構築することは難しくなります。

データアノテーションの複雑さ

マルチモーダルAIでは、テキスト・画像・音声など異なる形式のデータを統合して扱う必要があるため、データアノテーションは非常に複雑な作業になります。

例えば、動画データの場合、イベントが発生したタイミング(タイムスタンプ)の記録や、その行動の意味づけ(コンテキスト)の理解、一連の説明文の作成など、すべてにおいて高い整合性が求められます。

特に専門知識が必要な分野では、正確かつ詳細なアノテーションが不可欠です。前処理(データアノテーション)が不十分な場合、AIモデルの精度や信頼性に大きく影響を与えることになります。

評価指標の欠如

マルチモーダルAIは、複数の情報を同時に処理するため、どの情報をどのように用いて判断したかを人間が理解しにくいという問題があります。そのため、課題として、統一されたベンチマークや評価指標が存在しないことが挙げられます。

評価は多くの場合、コンテキストやユースケースに依存し、主観的になりがちです。また、異なるモダリティ全体を横断的に評価できるようなマトリクス形式の評価指標の開発も、依然として難しい課題となっています。

ブラックボックス化により、トラブル時の原因分析や責任の所在が不明確になるリスクも指摘されています。特に医療や法務など、説明責任が求められる分野では導入に慎重さが求められます。

マルチモーダルAIの活用事例

マルチモーダルAIは、すでにさまざまな業界や分野の応用が進んでいます。活用事例と導入メリットを紹介します。

カスタマーサポート

マルチモーダルAIは、チャットボットを活用したカスタマーサポートで活用されています。

例えば、ユーザーが送信した画像や音声、テキストをAIが統合し、総合的に理解することで、より正確な回答を提供することが可能になります。

また、マルチモーダルAIを活用したECサイトでは、商品の写真を送ると、関連商品や商品説明を自動で提案するサービスも登場しています。

ヘルスケア医療分野

マルチモーダルAIは、医師などの医療従事者を支援する目的で活用されています。

医療の現場では、画像診断(X線、MRIなど)と医師の所見を同時に解析し、診断のサポートを行うAIが実用化されています。これにより、見落としのリスクを減らし、診断の精度向上に貢献しています。また、患者の声や動作もあわせて分析できるため、リハビリや介護の分野でも活用が進んでいます。

教育・学習支援分野

マルチモーダルAIは、教育や学習支援分野でも活用されています。

例えば、テキスト、動画、音声を組み合わせることで、ユーザー個人に最適化された学習サポートが可能になります。

また、AI英会話アプリでは、音声と口元の動きをAIがチェックし、リアルタイムでフィードバックを提供するなど、マルチモーダルAIが活用されています。

自動車業界

自律走行システムにおいて、マルチモーダルAIは、地理空間データ、ビデオフィード、LIDAR、レーダー、POIデータなど、複数のモダリティを処理し、より安全なナビゲーションと意思決定を実現してます。


マルチモーダルAIのトレーニングに必要な学習データ

人工知能(AI)の急速な発展により、私たちの社会は新たな変革期を迎えています。この変革の中心にあるのが、多様な情報を統合できるマルチモーダルAIです。画像、音声、テキストなど、異なる種類のデータを組み合わせることで、人間に近い高度な認知能力を実現します。

マルチモーダルAIは、コンテキスト(文脈)を理解し、より精度の高いタスク遂行を可能にするものです。例えば、動画内の視覚情報と音声情報を同時に処理することで、より自然な対話を実現したり、視覚障害者向けの音声説明を生成したりすることができます。

生成AIの分野において、マルチモーダルAIは大きな進展をもたらしています。大規模言語モデルとの連携により、テキストだけでなく、画像や音声も生成できるようになり、より没入感のある体験を提供します。

AIデータのグローバルリーダーであるAppenは、多様なデータを収集・加工し、AIモデルの学習に活用することで、より汎用性の高いモデルの開発に貢献しています。

マルチモーダルAIの課題

マルチモーダルAIは、画像、動画、音声、テキストなど、多様なデータを統合し、より人間らしい知能を実現する技術として注目されています。

しかし、その発展にはいくつかの課題が存在します。

データ量の不足

マルチモーダルAIモデルを学習させるには、大量かつ多様な種類のデータが必要です。しかし、テキストと画像など、異なる種類のデータが組み合わされたペアとなるデータ(マルチモーダルペア)は、数が少なく、手に入りにくいのが現状です。オープンソースのデータセットは、テキストと画像といった組み合わせに集中する傾向があり、汎用的な用途にしか使えないことが多いです。より多くの種類のデータ(モダリティ)に対応できるAIモデルを作り、特定の目的に合わせてモデルを調整するためには、独自にデータセットを作成する必要があります。

データアノテーションの品質

単一モダリティのデータに比べて、マルチモーダルデータのアノテーションはより複雑な作業です。例えば、動画データの場合、イベントが発生した時間(タイムスタンプ)、その行動の意味合い(コンテキスト)、そして一連の説明文の作成などが求められます。特に、専門的な知識が必要な分野の動画では、正確で詳細なアノテーションが不可欠です。

評価指標の欠如

マルチモーダルAIシステムにおける大きな課題は、統一的なベンチマークや評価指標が存在しないことで、コンテキストとユースケースに依存し、主観的になることが多いです。また、異なるモダリティ全体で評価できるマトリクス形式のメトリクスの開発も難題です。

マルチモーダルAIのトレーニングデータ

大規模言語モデルの進化により、ユーザーは画像や動画などの視覚情報に対して、より自然な言葉で質問できるようになりました。たとえば、「冷蔵庫の中身は何ですか?」という簡単な質問から、「これらの食材でどんな料理を作れますか?」といった複雑な質問まで、幅広い問いかけが可能になっています。これらの質問は、動画などの多様なデータと関連付けることで、より高度な対話を実現します。

視覚情報とテキスト情報を組み合わせることで、ユーザーは情報をより直感的に取得でき、AIとのやり取りが一層スムーズになります。

プロンプトと応答

マルチモーダルAIをトレーニングするためには、大規模かつ多様な画像や動画などの視覚的なデータと、それに対応するテキストデータ(プロンプトやプロンプトと応答のペア)が必要です。テキストデータに詳細なアノテーションを加えることで、文章内のキーワードを画像内の物体や動画内の出来事に紐付けることができ、モデルの学習をより効果的に行えます。

Multi-Modal-Prompt-Collection.png

動画をテキストデータに変換

大規模言語モデル(LLM)が動画の内容に関する質問に答えられるようにするためには、モデルをトレーニングするための特別なデータセットが必要です。このデータセットは、動画の内容を詳細に説明したテキストで構成されています。

動画の字幕とは異なり、このテキストは単なる文字起こしではなく、動画内の出来事をより深く理解できるような説明などです。例えば、「人がドアを開けて部屋に入る」といった具体的な行動や、「笑顔で話す女性」といった人物の表情などを記述します。さらに、タイムスタンプを付加することで、テキストのどの部分が動画のどの時点に対応するかを明確にします。

視覚的な要素にも注目し、画像内の重要なオブジェクトやシーンに注釈を付けることで、テキストと視覚情報を密接に結びつけます。これにより、大規模言語モデルは動画の内容をより深く理解し、より複雑な質問に答えられるようになります。

Video-to-Text-Data.png

動画と音声の文字起こしと字幕作成

動画の音声や画面上のテキストは、AIが動画の内容を深く理解するための重要な手がかりとなります。これらの情報を文字起こしやキャプションとしてテキスト化することで、AIは映像だけでなく、発言内容や表示される文字も解析できるようになります。特に、プレゼンテーションやニュース、スポーツ中継など、音声情報が重要な動画では、音声の文字起こしは欠かせません。

文字起こしされたテキストにタイムスタンプを付加することで、音声と映像の対応関係を明確にし、より詳細な分析を可能にします。さらに、文字起こしされたテキストに注釈を加え、映像内の特定の箇所と関連付けることで、視聴者はより直感的に動画の内容を理解できます。

Visual-audio-transcription.png

このような多様な情報を組み合わせることで、AIは動画全体を包括的に理解し、ユーザーにとって有益な情報を提供できるようになります。例えば、質問応答や要約、キーワード抽出など、様々なタスクに活用することができます。

Appenのソリューション

データ収集・データアノテーション

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